Middle Tempo Magic
人混みの中に埋もれ埋もれ
約束の地 グンマー(前編)
レイ・リッチモンド作「約束の星」より
親愛なる妻ジェニーと3人の息子達に捧ぐ
◆◆◆◆◆
「グンマーゴキブリなんてどんなに進化したって所詮虫だよ。奴らが昼寝の邪魔をしてきたら一匹残らず素焼きにでもして食ってやるさ。」
そんな陽気な冗談を言うのがケンは好きだった。
僕と妹のリョウコが彼と出会ってすぐに家族のように打ち解けたのは、同じアジア系移民の末裔であるという理由以外に、彼の明るく屈託の無い性格によるところが大きいかったのだろう。
それでもケンが、地球から遥か265km万光年離れた惑星グンマーのサルファー鉱山開発基地の隊員として選抜されることが決まったときは、さすがに思うことがあったようだ。
24世紀以降、航行システム飛躍的な進歩により、人類は何百万光年と離れた星へ行き来する手段を有するようになったとはいえ、グンマーまでは片道およそ2年間の船旅となる。
加えてプロジェクトの性質からおいそれと地球へ戻ることは叶わない。
勿論、彼のことだから宇宙の果ての未開の星へ骨を埋める覚悟は出来ていたのだろうが、彼を思いとどまらせようとしたのは、地球への未練でも身の危険でもなく、たった一つの思いだった。
「『人類の未来を担うこの仕事に携われることを俺は誇りに思っている』いつもそう言っていたじゃない。私はあなたとならどこだって平気よ。」
幼くして両親を亡くしてからというもの、いつも僕の後ろをトコトコと追いかけてばかりいると思っていたのに、尻込みする男二人をそっちのけで、真先に決断してしまったのだから、知らないうちにたくましく成長していたものだ。
いやはや、いざとなると女性は強いと言うけれど、妹もまた例外ではなかったようだ。
こうして、心新たに僕の弟となった親友と妹は、結婚から1年後、第一次グンマー開拓団1410名の仲間と共に人類の未来を背負い、惑星グンマーへと旅立っていった。
◆◆◆◆◆
あれから9年の歳月が流れ、時は西暦2413年10月13日。
UNSA(国際宇宙開発局)のケネディ宇宙センターに、惑星グンマーから風雲急を告げる通信が届いた。
通信によれば、惑星規模の大規模な自然災害により、ケンとリョウコの暮らすオグシ基地も被害を受けたという。
直ちに災害復旧のための専門家チームが派遣されることが決まり、私も局長に直訴して地質学者として一員に加えてもらう運びとなったのである。
◆◆◆◆◆
そうして迎えた出発の朝。
最終システムセルフチェック、オールクリア!
3、2、1・・・
メインエンジン点火!
グォン、グルルルル・・・・
今回、僕を含め199名の救援チームをグンマーまで運んでくれるのは二輪車型高速艦のGSX-R750 K9だ。
ケン達は2年をかけてグンマーへ行ったが、潤沢なサルファー資源を手にしたことで、この最新鋭サルファーマル式位相偏移動力装置を搭載した高速艦は、僅か40日という驚異的なスピードで航行することが可能となった。
これもケン達のおかげだ。
グンマーへは、地球から全宇宙へ向かって放射状に延びる複数の宇宙高速道を乗り継ぐのだが、僕を含め、長距離の航海経験が少ない隊員は、この高速道の特徴であるヒッグス理論を応用したワープ航法に、僕の体はすっかり参ってしまった。
例えるならば、暗いトンネルの中をずっと落ち続けるような不思議な感覚なのだ。
「なんだあ? 宇宙酔いでヘロヘロの姿なんて妹さんには見せられないぞ」
そういってケビン艦長には笑われてしまったが、僕はUNSA職員といえども研究所に篭り勝ちでだったから無理も無い・・・。
旅程が進むにつれ、その宇宙酔いも次第に快方へ向かい、カンエツスペースハイウェイの衛星タカサカ補給基地では、付近では最大の恒星フジの美しい姿を楽しむことができた。
しかし何よりも隊員たちの心の余裕を生んだのは、グンマーからの新たな情報で、基地の人的被害が当初の予想よりも軽微であったということだろう。
(通信については近年の量子テレポート技術の発達により、何万光年離れていても、ほぼリアルタイムでの送受信が実現されているのだ)
同僚のお調子者のケイシーなんかは
「地球からこんなに離れていてもカレーうどんの味は変わらないなあ、うまいうまい」
などと暢気なことを言ってケビン艦長にゲンコツを喰らう始末。
が、実のところ僕も不謹慎ながら、ケンとリョウコの一家の安否が確認できたおかげで、一時は任務を忘れ、グンマーへ向かう宇宙の船中で生まれたはずの甥っ子のケニーもかわいい盛りだろうなあなどと、9年ぶりの彼らとの再会を楽しみにしていたのは、ここだけの話だ。
◆◆◆◆◆
そして僕たちは予定よりも数日遅れたものの、グンマーの地へと降り立った。
しかし、これは一体どういうことだ?!
ガガッ・・・ミーィィック!
そっちはどうだー?!
ガガッ・・・今、映像を送る!
ああ、ご覧のとおり、見渡す限り何も無い、ただの禿山さ。
これじゃあ、まるで毛無峠だぜ・・・。
おい、コイツを見てみろ!
バージェス教授、これは・・・?
「そうだな、例えば、サルファーのような物資を輸送するのに適した巨大ロボットの残骸のようにも見える・・・が、とても我々の知りうるテクノロジーの産物ではないぞ。
何で出来ているのかすら全く想像が付かんよ。」
一体、誰がこんなものを?
ここはグンマーではないのか?
座標はこの辺りで間違いないはずなのだが開拓団の姿も見当たらないし、それに、地球本部との通信も途絶えたままだ。
まさか、この高度な技術をもつ正体不明の敵に開拓団は滅ぼされてしまったとでもいうのだろうか?
「先生っ!!」
そういって息を切らしてバージェス教授の元へ駆けてきたのは助手のレディングだ。
「GSX-R号のマザーコンピューター『ゾラック』の解析結果が出ました。
大気成分、地質の組成データや周囲の天体の位置関係はグンマーのものと99.9%以上一致しています。
また、このロボットと見られる人工物に付着した炭素化合物を放射年代測定したところ・・・その、す、既に1600年もの時間が経過していると推測されるとのことです!」
・・・ッ!!
なんだって?!
いや、まさか・・・。
この時、あまりにも莫迦げた仮説が脳裏を過ったのは僕だけでなかったはずだが、誰も言い出せないでいた。
そうさ、こんなことはあり得ない。
きっと何の間違いに決まっている・・・。
というわけで続く・・・(って、続くんかい!)
【目次】
約束の地 グンマー (予告編)
約束の地 グンマー (前編)
約束の地 グンマー (中編)
約束の地 グンマー (後編)
親愛なる妻ジェニーと3人の息子達に捧ぐ
◆◆◆◆◆
「グンマーゴキブリなんてどんなに進化したって所詮虫だよ。奴らが昼寝の邪魔をしてきたら一匹残らず素焼きにでもして食ってやるさ。」
そんな陽気な冗談を言うのがケンは好きだった。
僕と妹のリョウコが彼と出会ってすぐに家族のように打ち解けたのは、同じアジア系移民の末裔であるという理由以外に、彼の明るく屈託の無い性格によるところが大きいかったのだろう。
それでもケンが、地球から遥か265km万光年離れた惑星グンマーのサルファー鉱山開発基地の隊員として選抜されることが決まったときは、さすがに思うことがあったようだ。
24世紀以降、航行システム飛躍的な進歩により、人類は何百万光年と離れた星へ行き来する手段を有するようになったとはいえ、グンマーまでは片道およそ2年間の船旅となる。
加えてプロジェクトの性質からおいそれと地球へ戻ることは叶わない。
勿論、彼のことだから宇宙の果ての未開の星へ骨を埋める覚悟は出来ていたのだろうが、彼を思いとどまらせようとしたのは、地球への未練でも身の危険でもなく、たった一つの思いだった。
「『人類の未来を担うこの仕事に携われることを俺は誇りに思っている』いつもそう言っていたじゃない。私はあなたとならどこだって平気よ。」
幼くして両親を亡くしてからというもの、いつも僕の後ろをトコトコと追いかけてばかりいると思っていたのに、尻込みする男二人をそっちのけで、真先に決断してしまったのだから、知らないうちにたくましく成長していたものだ。
いやはや、いざとなると女性は強いと言うけれど、妹もまた例外ではなかったようだ。
こうして、心新たに僕の弟となった親友と妹は、結婚から1年後、第一次グンマー開拓団1410名の仲間と共に人類の未来を背負い、惑星グンマーへと旅立っていった。
◆◆◆◆◆
あれから9年の歳月が流れ、時は西暦2413年10月13日。
UNSA(国際宇宙開発局)のケネディ宇宙センターに、惑星グンマーから風雲急を告げる通信が届いた。
通信によれば、惑星規模の大規模な自然災害により、ケンとリョウコの暮らすオグシ基地も被害を受けたという。
直ちに災害復旧のための専門家チームが派遣されることが決まり、私も局長に直訴して地質学者として一員に加えてもらう運びとなったのである。
◆◆◆◆◆
そうして迎えた出発の朝。
最終システムセルフチェック、オールクリア!
3、2、1・・・
メインエンジン点火!
グォン、グルルルル・・・・
今回、僕を含め199名の救援チームをグンマーまで運んでくれるのは二輪車型高速艦のGSX-R750 K9だ。
ケン達は2年をかけてグンマーへ行ったが、潤沢なサルファー資源を手にしたことで、この最新鋭サルファーマル式位相偏移動力装置を搭載した高速艦は、僅か40日という驚異的なスピードで航行することが可能となった。
これもケン達のおかげだ。
グンマーへは、地球から全宇宙へ向かって放射状に延びる複数の宇宙高速道を乗り継ぐのだが、僕を含め、長距離の航海経験が少ない隊員は、この高速道の特徴であるヒッグス理論を応用したワープ航法に、僕の体はすっかり参ってしまった。
例えるならば、暗いトンネルの中をずっと落ち続けるような不思議な感覚なのだ。
「なんだあ? 宇宙酔いでヘロヘロの姿なんて妹さんには見せられないぞ」
そういってケビン艦長には笑われてしまったが、僕はUNSA職員といえども研究所に篭り勝ちでだったから無理も無い・・・。
旅程が進むにつれ、その宇宙酔いも次第に快方へ向かい、カンエツスペースハイウェイの衛星タカサカ補給基地では、付近では最大の恒星フジの美しい姿を楽しむことができた。
しかし何よりも隊員たちの心の余裕を生んだのは、グンマーからの新たな情報で、基地の人的被害が当初の予想よりも軽微であったということだろう。
(通信については近年の量子テレポート技術の発達により、何万光年離れていても、ほぼリアルタイムでの送受信が実現されているのだ)
同僚のお調子者のケイシーなんかは
「地球からこんなに離れていてもカレーうどんの味は変わらないなあ、うまいうまい」
などと暢気なことを言ってケビン艦長にゲンコツを喰らう始末。
が、実のところ僕も不謹慎ながら、ケンとリョウコの一家の安否が確認できたおかげで、一時は任務を忘れ、グンマーへ向かう宇宙の船中で生まれたはずの甥っ子のケニーもかわいい盛りだろうなあなどと、9年ぶりの彼らとの再会を楽しみにしていたのは、ここだけの話だ。
◆◆◆◆◆
そして僕たちは予定よりも数日遅れたものの、グンマーの地へと降り立った。
しかし、これは一体どういうことだ?!
ガガッ・・・ミーィィック!
そっちはどうだー?!
ガガッ・・・今、映像を送る!
ああ、ご覧のとおり、見渡す限り何も無い、ただの禿山さ。
これじゃあ、まるで毛無峠だぜ・・・。
おい、コイツを見てみろ!
バージェス教授、これは・・・?
「そうだな、例えば、サルファーのような物資を輸送するのに適した巨大ロボットの残骸のようにも見える・・・が、とても我々の知りうるテクノロジーの産物ではないぞ。
何で出来ているのかすら全く想像が付かんよ。」
一体、誰がこんなものを?
ここはグンマーではないのか?
座標はこの辺りで間違いないはずなのだが開拓団の姿も見当たらないし、それに、地球本部との通信も途絶えたままだ。
まさか、この高度な技術をもつ正体不明の敵に開拓団は滅ぼされてしまったとでもいうのだろうか?
「先生っ!!」
そういって息を切らしてバージェス教授の元へ駆けてきたのは助手のレディングだ。
「GSX-R号のマザーコンピューター『ゾラック』の解析結果が出ました。
大気成分、地質の組成データや周囲の天体の位置関係はグンマーのものと99.9%以上一致しています。
また、このロボットと見られる人工物に付着した炭素化合物を放射年代測定したところ・・・その、す、既に1600年もの時間が経過していると推測されるとのことです!」
・・・ッ!!
なんだって?!
いや、まさか・・・。
この時、あまりにも莫迦げた仮説が脳裏を過ったのは僕だけでなかったはずだが、誰も言い出せないでいた。
そうさ、こんなことはあり得ない。
きっと何の間違いに決まっている・・・。
というわけで続く・・・(って、続くんかい!)
【目次】
約束の地 グンマー (予告編)
約束の地 グンマー (前編)
約束の地 グンマー (中編)
約束の地 グンマー (後編)
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この記事にコメントする
約束の地 グンマー(前編)
グンマーでも漁師テレポート技術で、ほぼリアルタイムで海鮮丼が食べれるようです。
カンエツ、キタカント、ジョバーンの三大スペースハイウェイのお陰ですね。
後編、並びに「さらば グンマー」「グンマーよ 永遠に」などの続編も期待してます。
(たまご様のファンより)
カンエツ、キタカント、ジョバーンの三大スペースハイウェイのお陰ですね。
後編、並びに「さらば グンマー」「グンマーよ 永遠に」などの続編も期待してます。
(たまご様のファンより)
- tkj
- 2013/10/17(Thu)07:11:36
- 編集
約束の地 グンマー(前編)
>tkjさん
この糞つまらない長文にお付き合い頂きありがとうございます(笑)
おさかなテレポーテーション技術は素晴らしいですね。
最近ではコールドスリープで鮮度もいいのだとか。
他にも、グンマーと僕、グンマーの休日、ドクターグンマー放浪記、など続編が続々で背筋がゾクゾク・・・
この糞つまらない長文にお付き合い頂きありがとうございます(笑)
おさかなテレポーテーション技術は素晴らしいですね。
最近ではコールドスリープで鮮度もいいのだとか。
他にも、グンマーと僕、グンマーの休日、ドクターグンマー放浪記、など続編が続々で背筋がゾクゾク・・・
- たまご
- 2013/10/17(Thu)08:24:55
- 編集
約束の地 グンマー(前編)
地球から離れた場所でもカレーうどん・・・ふむふむ( ..)φメモメモ
あっ!艦長!!デマエ一つ!!大盛りできる?
あっ!艦長!!デマエ一つ!!大盛りできる?
- まさくん
- 2013/10/17(Thu)23:32:39
- 編集
約束の地 グンマー(前編)
>まさくんさん
カレーうどんは元々インド料理であるカレーをアレンジした日本食の一つでありますが、25世紀においては世界中、いや宇宙中の食卓を席巻するほどの人気となりました。
本来無重力である宇宙でも、おつゆを飛ばさずにおいしいうどんが食べられるのは、宇宙船の動力源でもある、重力場位相コントロール技術のおかげですね。
もちろん大盛もありますよ。
カレーうどんは元々インド料理であるカレーをアレンジした日本食の一つでありますが、25世紀においては世界中、いや宇宙中の食卓を席巻するほどの人気となりました。
本来無重力である宇宙でも、おつゆを飛ばさずにおいしいうどんが食べられるのは、宇宙船の動力源でもある、重力場位相コントロール技術のおかげですね。
もちろん大盛もありますよ。
約束の地 グンマー(前編)
数年前、未開の地グンマーが注目されましたが、実は惑星だったとは・・・
政府の情報操作でしょうか。
陰謀の”かほり”がします。
政府の情報操作でしょうか。
陰謀の”かほり”がします。
- trash
- 2013/10/18(Fri)21:03:47
- 編集
約束の地 グンマー(前編)
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